手外科
HAND SURGERY

手外科
診療科の概要
手外科では、手・手首・肘などの運動や感覚に関わる組織(骨・関節・腱・神経・血管など)に生じる外傷や疾患を対象に診療を行っています。日常生活に支障をきたすしびれや痛み、変形、動きの制限などに対し、保存療法から手術まで幅広く対応しています。
当科では手根管症候群をはじめとする手外科疾患に対し、年間約100件の手術・処置を行っており、豊富な治療経験をもとに診療を行っています。
主要対象疾患
- 手根管症候群
- キーンベック病(月状骨軟化症)
- 三角繊維軟骨複合体損傷(TFCC損傷)
- へバーデン結節
- 舟状骨骨折
- マレット変形(槌指)
- ばね指(弾発指
- ガングリオン
- 腱断裂
- 神経断裂
- 肘部管症候群
- デュプイトラン拘縮 など
手根管症候群
・症状
示指・中指を中心にしびれ、痛みが出ます。しびれは環指、拇指に及ぶこともあります。
これらは明け方に強くなり、手を振ることで楽になります。
拇指の付け根(拇指球)がやせてきて、縫い物やボタンかけなど細かい作業が困難になり、指で OKサインができにくくなります。
・治療
飲み薬、局所の安静、ブロック、手術などにより治療します。
キーンベック病(月状骨軟化症)
・症状
手を使った後、手首に痛みと腫脹が見られます。握力が低下し、手首の動きが悪くなります。
・原因
原因は不明ですが、月状骨がつぶれる病気です。職業的に手をよく使用する青壮年男性に多くみられます。女性の高齢者にも見られることがあります。
・治療
症状、年齢によって治療が変わります。安静やギプス、装具による固定が行われますが、治らないときは、橈骨短縮術や血管柄付き骨移植などの手術を行います。
三角繊維軟骨複合体損傷(TFCC損傷)
・症状
腕を捻ったり手首を小指側に曲げた時に、小指側に痛みが出現します。
通常安静時痛はありません。
・原因
手首の小指側にある三角繊維軟骨複合体(TFCC)という組織が損傷されることで痛みが出ます。
けがによるものと、加齢に伴うものに大別できます。後者では、無症状のこともあります。
・治療
保存的療法→固定やサポーターによる局所安静、局所麻酔入りのステロイド注射で炎症を抑える。
手術療法→内視鏡による修復術や尺骨短縮術などの手術法で対応しています。
へバーデン結節
・症状
示指から小指にかけて第1関節が赤く腫れたり、曲がったり、痛みを伴うこともあります。
動きが悪くなり、痛みのため強く握ることが困難になります。
・原因
原因は不明ですが、局所の所見は第1関節に発生する変形性関節症です。
一般に40歳代以上の女性に多く発生します。
・治療
保存療法→最初に行います。薬物療法や局所のテーピング
手術療法→保存療法で痛みがとれなかったり、変形がひどくなり日常生活で困るときなどに手術を行います。
また、水ぶくれが大きくなると、破れて感染を起こしやすい為、手術を行います。
当院の、手の外科専門医にお尋ねください。
舟状骨骨折
・症状
けがの直後では、手首の母指側に痛みと腫れが生じます。時間とともに軽快しますが、放置していると骨折部がつかずに偽関節となります。手をついたり重いものを持った時などに手首に痛みが生じ、力がはいりにくく動きも悪くなります。
・原因
多くの場合、スポーツや交通事故などで手首を背屈して手をついた時に生じます。
この骨折の特徴は、骨折と思わず捻挫と思ったまま放置したため、偽関節になることがあります。
・治療
まず、レントゲン検査を行います。受傷早期の場合は骨折を診断できないことがあるため、MRIやCTも合わせて検査を行っていきます。
舟状骨は血行が悪いため、非常に治りにくい骨折のひとつです。受傷直後に診断がついた場合はギプス固定で治すこともあります。この固定が長期に及ぶことが多いため、最近では手術によって治療期間を短縮することも積極的に行っています。
早期の運動を可能とする為、継続的に手術を行っています。
偽関節については、骨移植、内固定術を行っています。
マレット変形(槌指)
・症状
手指の第一関節が曲がったままで腫れや痛みがあり、手伝ってやれば伸びますが、自分で伸ばそうとしても伸びない状態。
・原因
突き指の一種で、ボールなどが指先にあったときに起こります。
指を伸ばす腱が切れた状態と腱がついている骨の一部が折れた状態の2つのタイプがあります。
・治療
レントゲン検査で骨折の有無を確認します。
病態や骨折後の経過時期によって治療はことなります。
腱断裂では一般に装具をつけての保存療法が行われ、骨折を伴う場合は手術療法を必要とすることがあります。
ばね指(弾発指)
・症状
屈筋腱と靭帯性腱鞘の間で炎症が起こると、指の付け根に痛み、腫れ、熱感が生じます。
これを腱鞘炎と呼び、進行するとばね現象が生じます。これがばね指です。
更年期の女性に起こることが多く、妊娠時、産後に生じることもあります。
糖尿病、透析患者さんにも発生し、母指、中指、環指に多くみられます。
・治療
指の使い過ぎにより腱鞘は肥厚したり腱が肥大し、通過障害おこすため一層症状が強くなります。
保存療法→局所の安静目的で装具をつけたり、腱鞘内に局麻剤入りステロイド注射をして症状を押さえます。
手術療法→保存療法で治らないときや、指が曲がったまま伸びないときは行います。
ガングリオン
・症状
関節の周辺に米粒大からピンポン玉くらいの腫瘤ができます。
手を使い過ぎると腫瘤は大きくなることもあり、手首の甲に出来ることが多く、軟らかいものから硬いものまであります。
不快感はありますが、多くの場合強い痛みはありません。ただし、神経が圧迫されると痛みがでることもあります。
・原因
関節包や腱鞘の変性により生じます。女性に多いですが、必ずしも手をよく使う人に多いとは限りません。
・治療
注射器で腫瘤を穿刺し、内容物がゼリー状ならガングリオンと診断します。小さいものはMRIや超音波検査が有効的です。
ガングリオンは放置しても心配はありませんが、大きくなるもの、痛みが強いもの、神経が圧迫される症状が出るものには治療が必要です。
注射器で内容物を吸引したり、繰り返し溜まる場合には手術で摘出する場合があります。
いずれの治療法でも再発する場合があります。
腱断裂
・症状
腱断裂の症状は、断裂した瞬間の激しい痛みや「ブチッ」という断裂音を感じることが多く、直後から力が入らない・動かせないといった機能障害が生じます。
部位によっては腫れや皮下出血が目立ち、例えばアキレス腱断裂ではつま先立ちができない、上腕二頭筋腱断裂では腕の力こぶの変形など、特徴的な所見が現れます。
・原因
腱断裂の原因は大きく分けて以下の2つです。
1つ目はスポーツや転倒などによる急激な外力で、ジャンプの着地やダッシュ動作中に発生しやすいです。
2つ目は加齢や使い過ぎによる腱の変性で、血流低下や微細損傷の蓄積により腱が弱くなり、日常動作レベルでも断裂することがあります。
特に40歳以上では、明確な外傷がなくても発症する例が少なくありません。
・治療
治療は保存療法と手術療法に分かれます。
保存療法では、ギプスや装具で患部を固定し、自然治癒を促します。高齢者や活動量の少ない方に選択されることが多いです。
一方、完全断裂やスポーツ復帰を目指す場合には手術療法が選択され、断裂した腱を縫合・再建します。
いずれの場合も、治療後はリハビリテーションが極めて重要で、可動域訓練や筋力回復を段階的に行います。
神経断裂
・症状
神経断裂では、断裂した神経が支配する領域に以下の症状が現れます。
感覚神経が断裂した場合は、しびれ、感覚消失、触れても分からない状態が生じます。
運動神経が断裂すると、筋力低下や完全な運動麻痺が起こり、指や関節が動かせなくなります。
自律神経が関与する場合は、発汗異常や皮膚の血流低下などもみられます。
時間の経過とともに、筋萎縮や関節拘縮が進行することもあります。
・原因
神経断裂の多くは外傷性で、以下が代表的です。
▶︎ガラスや刃物による切創
▶︎交通事故や転落事故による強い牽引・圧迫
▶︎骨折や脱臼に伴う神経損傷
▶︎手術中の医原性損傷
特に上肢(手指・前腕)や下肢では日常生活や労働災害に関連した外傷が原因となるケースが多いとされています。
・治療
治療は損傷の程度・部位・受傷からの時間によって異なります。
完全断裂の場合は、自然回復は期待できず、神経縫合術や神経移植術などの外科的治療が検討されます。
不全断裂や圧迫損傷では、保存的治療(安静、装具、薬物療法)と経過観察が行われることもあります。
手術後や保存療法中には、リハビリテーションが不可欠で、関節拘縮予防や筋力維持、再教育訓練を行います。
肘部管症候群
・症状
麻痺の進行により違います。初期は小指と環指の一部にシビレ感が出ます。
麻痺が進行するに伴い手の筋肉がやせてきたり、小指と環指が変形をおこします。
・原因
肘の内側で神経(尺骨神経)が慢性的に圧迫されたり牽引されることで発症します。
神経を固定している靭帯やガングリオンなどによる圧迫、加齢に伴う肘の変形、子供の時の肘の骨折などからくる変形、野球や柔道などのスポーツからが考えられます。
・治療
肘の内側を叩くと小指と環指にシビレが走ります。
薬物の服用などの保存療法で症状が軽快しない場合は、尺骨神経を圧迫しているバンドの切離やガングリオンの切除、神経の緊張が強い場合は骨を削ったり神経を前方に移動させる手術を行うことがあります。
デュプイトラン拘縮
・症状
初期には手のひらに硬いしこり(結節)が触れる程度ですが、進行すると索状の硬結が形成され、指が曲がったまま伸ばせなくなる屈曲拘縮が出現します。痛みは軽微または無痛であることが多い一方、日常動作(手を開く、物をつかむ)に支障を来します。
・原因
明確な原因は未解明ですが、遺伝的要因が強く示唆され、中高年男性に多くみられます。糖尿病、喫煙、飲酒、肝疾患などとの関連が報告されており、手の酷使が直接原因になるわけではないとされています。
・治療
症状の程度により選択されます。
経過観察:軽症で機能障害が少ない場合。
注射治療:コラゲナーゼ注射により索状組織を分解し、指の伸展を改善。
手術療法:進行例では掌腱膜切除術などを行い、拘縮を解除。
治療後も再発の可能性があるため、長期フォローが重要です。

ひだか やすひろ
日髙 康博
院⾧
経歴
- 1978年
- 東京大学工学部卒
- 1984年
- 大阪大学医学部卒
大阪大学医学部付属病院整形外科勤務 - 1986年
- 大阪大学医学部付属病院麻酔科勤務
- 1989年
- 姫路赤十字病院整形外科勤務
- 1992年
- 名古屋大学附属病院分院整形外科(手外科)勤務
- 1994年
- 医療法人社団仁和会 神野病院整形外科勤務
- 2012年
- 当院病院長就任
学会専門医・認定医・その他
- 日本整形外科学会:専門医
- 日本手外科学会:専門医 2020年 日本手外科学会功労賞
- 医学博士
